小正月の思い出
                        
月14日〔月遅れ正月〕午前中までは村中、ムシロ織りで「ギートン、ギートン」と父母たちは働くのであった。
 午後には久しぶりに風呂に家中が入ってから夕食をすませ、囲炉裏を囲んで、明日小正月の仕事の段取りを父が話すのだった。そして、父は囲炉裏の中のクイゾや火箸、ゴミなどをきれいに片づけ、そこに苗代作りを始める。表面を平らにするため、ジュウノで灰をならす。きれいにしてから眠るのだ。
 いよいよ15日の朝がやってくる。家中4時前に起きたものだ。子ども達は「鳥ボイ」で外に出る。拍子木を持ったり、カナミと棒を持って出るもの、手をたたく者が一斉に奇声をあげる。そして、自分の田んぼの地名を呼んで「スズメ、イネクナ、ホアホア」と叫ぶのだった。そんな声が村の方々から聞こえてきて賑やかなものであった。
 父は夜明けを待ってヨコヅツを縄に結んで「ヨコヅツノ、オトウリダ。モグラモチノオコサンヨウニ」と家の周りの雪の上を3回回ったものであった。
 当時は村中の習わしでこの行事をやらないと稲は鳥に食われ、家の周りの畑はモグラモチにやられると信じ切っていた。また、母は茶碗に塩水をいれ囲炉裏に向かって「サンボン、クワウジンサマ、悪事ヲオヨケクダサイ」と祈り、藁を折ったもので塩水をふりまいた。
 それから、上座敷から順に「ニッパン、カイサンドウゲン、オオオショウサマ、ドウカ悪事災難ヲヨケテクダサイ」と家中塩水をまいて清めたものだった。そのあと、座敷を3回掃くのであった。
 夕食後は神棚は勿論、ナガシ〔台所〕の神、部屋の神、便所の神には正月中かかさずロウソクを供えて家中祈り清めたものだった。

  中村シン (板畑) (石黒校百年の歩みより)