小正月の花木飾り 

 私たちの集落では、私が子どもの頃は正月に「花木かざり」などの風習はなかったように思いますが、昭和20年の後半になってから、どこの家でもやるようになりました。
 花木は家内安全、五穀豊穣を願う行事で十一日正月に飾る木の枝をとりに、カンジキを履いて山に入って取ってくるのでした。
 花木に使う木の枝は、他家の所有地の木の枝でもかまわず切ったり折ったりしてきて良い事になっていました。一般にはモミジかダンゴノキ〔ミズキ〕の木が使われました。どちらかというとモミジの木の方が多く使われたように思います。
 花木の作り方は、まず、小正月の餅をついたときに、餅を少し残して置いてそれに赤や緑、黄色等の食紅を混ぜて花の形をつくります。

 方法は箸を3〜4本用意して餅を細長く20pほどの棒状にして、それに箸3〜4本を添えてはさむようにして両端をはさみ一日ほど置きまして箸を取り外して3oほどの厚さに切るのです。すると形が花形となりますのでそれを木の小枝の先に刺して飾ります。
 こうしてつくった枝を座敷の上にヒモで斜めに飾り付けますと、薄暗い家の中が明るくなり、寒い座敷も暖かくなったように感じました。
 花木は五日ほど飾っておいて二十日正月には「稲刈り」だといって花木を下ろして花餅を取って鍋の中でカラコロと煎って一家で食べ、これで正月も終わったと家で話しながら食べたものでした。
 飾り木のモミジやダンゴノキは雪の上で燃す習慣でした。
 その後、店で薄いきれいな色の煎餅にヒモを付けたものが売り出され殆どの家では花木飾りには煎餅を使うようになりましたが、私には今も餅の花の方が懐かしく思い出されます。
            田辺勇司 〔居谷在住〕