民具補説
          裁ち板

 私が子どもの頃(昭和のはじめ)正月が近くなりますと、母は窓にはめる落とし板の平らなものを一枚ゴザの上に置いて着物作りをしました。その落とし板は断ち板の代用でした。買ってきた反物を板の上に広げて物差しで測りながらヘラという道具で物指しに沿ってスジをつけてハサミで切断したり、また、ヘラで強く折り目をつけ針で縫ったりしたものでした。
 昭和15、6年頃だと思いますが、いつも来る金物屋が長い板を背負ってきました。「ああ、重かったのう」と言いながら雁木にトッコイショとかけ声とともに板を下ろしました。子どもの私たちが「重てぇそうな板だのう、何に使うだえ」と聞くと「これはなぁ、女衆が使うもんだ」とだけ教えてくれました。家の人が注文したものらしく代金をもらって金物屋は帰っていきました

 後で母に聞くと「断ち板」といって着物を縫うときにこの台の上で反物に目印のスジをつけたり、折り目を付けたりする時に使う台だとのことでした。だからこの板に傷を付けてはいけないと言い聞かされました。その台を買ってからは母は落とし板は使うことなくその台を使って着物を縫っていました。この裁ち板とともに思い出すのはクケ台(下図)という針刺しのついた柱を立てたりたたんだりできる和裁用具です。これも断ち板とともにクケ台も和裁ではなくてはならない道具の一つでした。
 裁ち板は下図のように板の長さも長く板も厚く、両方の端近くには、これまた分厚い板の脚がついていたのでとても重いものでした。



    文・図 田辺雄司(居谷)