民具補説
               タバコボン
 タバコ吸いが 「ガンガン、ふーふー」と音を立てて、タバコの吸い殻をタバコボンの竹筒のなかに叩き落としてから口に加えて空気を通す様が今でも目に浮かびます。
 タバコボンの中央にある瀬戸物の入れ物には囲炉裏のオキを2、3個入れて火だねとしました。
 キセルの先の小さな皿に刻み煙草を小さく丸めて詰めて火だねに近づけて吸うとタバコに火がつきます。うまそうに2、3回吸ってから雁首を竹筒の縁を叩くようにして吸い殻を竹筒のなかに落とします。これを急ぐことなくゆっくりと4、5回繰り返すのでした。


 時には、ボロ切れでキセルを念入りに磨いたり、ヌイゴ(イネの穂の柄)を2、3本根元の方を吸い口から差しこんで雁首の皿に出してゆっくり引き抜いてキセルの中に溜まったヤニを取り除くこともありました。引き出したヌイゴには黒いヤニが付着して出て来ました。これを3、4回やりますとキセルの中はきれいになるのでしたが、ヌイゴに付いたヤニはとても臭いの強いものでした。
 タバコボンの掃除は時々しましたが吸い殻の入った竹筒の中のカスは囲炉裏の中に入れ、決して外には棄てませんでした。まだ、火のついたものがあると危険だったからでした。昔の人達は火の用心には大変やかましく子どもの頃から厳しくしつけられたものでした。
 また、富山の薬売りなど行商人来たときには雁木に腰を下ろして、ズンギリからキセルを取りだしてタバコを詰めて火をつけて吸うのでしたが、次にタバコ詰めるときには吸い殻を手の中に吹き出しておいて巧みにその手を動かしながらもう一方の手でタバコをつめて手のなかの吸い殻を火だねとするのでした。子どもの頃その様子をみていて熱くないのかなあと感心して見ていたことを憶えています。
                   文・図 田辺雄司(居谷)