餅のし板
                            田辺雄司
 私達の集落では「盤石板−ばんじゃくいた」と呼んでいました。これはどこの家にもあり、年間を通して使った用具でした。
 昔は正月は言うまでもなく、祭りやお盆にも餅をつき、夏季の餅はカビが生えないようにササの葉で包んで横穴の中で保存したものでした。
 餅のし板は、杉材で厚さ3pくらい縦、横にしておきますと場所を採るばかりかホコリが溜まりますので必ず立てて収納しておきました。
 餅のし板が最も活躍するのは何と言っても正月でした。毎年5臼くらいつき、餅のし板で伸ばし広げて四角に切って保存しておきました。私の家では大きなオヒツのなかにワラクズを敷きその上に置いてワラクズをかけて凍み防止をしました。また、ネズミが喰わないようにしっかりとフタをしておきました。
 その他、餅おし板はそば作りにも欠かせない道具でありました。正月には一回に3升(約5.5リットル)ほどのソバ粉で作るのでした。
 ちなみに、作り方の概略を書きますと、まず、小さなナベに水をいれて二握りほどのヤマゴボウ(オヤマボクチ)の葉の繊維(乾燥し取り出した葉の繊維)をいれてとろとろの状態にしたものをソバ粉に入れて、コネバチの中でよくこねます。
 一方ではヤマノイモのすり下ろしたものを粉一升(1.8リットル)に対して入れる量をあらかじめ決めてすり下ろして入れてコネバチの中でよくこねます。
 こうしてこねた両方を一緒にしてよくこねて混ぜます。この時には量が多くなりますので餅のし板の上でこねました。
 十分にこねたところで全体を5つほどの塊に分けて一個ずつをもう一度コネバチの中でよくこねます。
 そしてそれを餅のし板の上に置いてのし棒で徐々にのばして直径1mほどに伸ばし広げます。そこでソバ粉をふりかけて合着しないようにしてたたみ、傍らのゴザの上に並べて置くのでした。
 こうして全部おわりますと、たたんだソバを餅のし板の上に置いてソロバンを定規代わりにしてソバ切り包丁を一定の幅に切るのでした。
 餅のし板は、このようにソバづくりでも欠くことの出来ない道具でありました。
 また、「盤石板」という名前は厚い板で作られていて目方が重かったのでつけられたのではないかと思います。この重い板を利用してネズミを捕りに使ったことも懐かしく思い出します。



 文・図 田辺雄司(居谷在住)