民具補説
             縦井戸と井戸車

 私が小学校の頃(昭和のはじめ)には、学校(分校)の他に7〜8軒の家に縦井戸がありました。中には屋外に小屋を建ててそこに縦井戸がある家もありました。
 縦井戸は、丈夫な縄の端に小型の桶を結びつけて縄を井戸車にかけてスルスルと下ろして水を汲み上げるのでした。中に井戸車ではなく両手で縄をたぐって桶を引き上げる家もありました。
 井戸車はほとんどは木の車でしたが、ただ一軒だけ鉄製の車を使っていました。井戸車は時々キーキーと音をたててきしむので、大人達は食用油の中に細い棒を入れて、棒の先端についた油を車の心棒につけてやるのでした。すると不思議にもキーキーという音はしなくなり静かに水を汲み上げることができるのでした。
 また、どこの家でも1年に1回は「井戸さらい」と呼ぶ井戸掃除をしました。縦井戸は、ポンプ式の井戸とは異なりフタがしてなかったので時には物が落ち込んだり、ネズミなども落ちることもあったので衛生面からも1年一度の清掃は欠かせないものでした。
 井戸さらいは、まず、井戸の水をほとんど汲みだしてから長いハシゴを2丁継ぎ静かに下りて井戸の底まできれいに掃除をしたのでした。相当の水がたまっているので井戸水のくみ出しが大変だったようです。井戸さらいのときには桶に結んだ縄も新しいものに取り替えました。
 学校の縦井戸は屋内と屋外の2ヶ所にありましたが、村人たちが力を合わせて井戸さらいをして縄を変えたりして、子どもたち健康安全に留意していました。

                         田辺雄司 (居谷)