兜巾山(ときんやま)
 兜巾山は、標高676.2mで村(鵜川村)では第3位の山です。山名の兜巾とは、修検者のかぶる布製の小さな頭巾で、山中遍歴の際、しょう気(熱病を起こさせる山川の病気)に触れるのを防ぐためにかぶるのであるといわれます、(一部略)
 故郷に住んでいない私たちには、直ちに兜巾の山を仰ぐことはできませんが、おりおりにでもその山容を思い出したいものです。
 法玄、明星等仏教にゆかりの名を持つ峰を従えて静かに立つ兜巾の山に日が沈む頃の夕日は、さながら如来の後光のように赤く映え、暮れゆく村を見守りくださるさまは、まことに有り難い仏のお姿であります。
 仏に抱かれた里に生まれた私たちが黄泉の旅にたつならば、必ずやそのお導きにより、何人によらず後生安楽は疑いなしでございます。実に法悦の里と申しましょうか。
 なお、法玄、明星の峰や山の名の由来を記しますと、法玄は仏教では法眼と書き「ほうげん」と読みます。五眼の一つで、いっさいの諸法を観察する菩薩の心眼であるととかれています。明星は、金星の俗称ですが、昔は多くの人がその徳行を仰ぐ優れた人への名称でありました。
 神の山に対して、仏の山、真言の教えを広めた証にその名を山に残した時代を遠く偲んで身の安楽をねがいましょう。
 山頂には、わずか数坪の平地に石の祠と碑が祀られてありますが、いずれも鵜川村に向かっていますので、鵜川の村人の進講による建立です。
               高橋義宗著 「鵜川の話」から抜粋