ひとらごと   DATE20190115

 

       初春の夢(観劇で感激)
                 大橋末治(2019.01.10)

 正月明けに京都劇場で前進座初春特別公演「裏長屋騒動記」を観劇する機会を得た。物語は、落語(「らくだ」と「井戸の茶碗」を併合したものらしい)を山田洋次監督が監修・脚本した初の試みとのことであり、会場は超満員の盛況ぶりであった。

 ところが、開演間際になっても私の左隣の5席のみが空席であった。不審に思っていると、開幕直前に長く派手な赤いマフラーを身に付けた中心人物と共に5人のメンバーが入場し着席した。静かな会場では着席後の耳に入る会話より、鈍感な私にも、直ぐに中心人物が山田監督であると知った。私の左隣は当劇場関係者(責任者?)で、その隣が山田監督、その向こうは劇場事務系の方々と推察した。山田監督がこちらを向いて話すので、その声はより明確に聞こえた。しかし、その内容は舞台セット・間の取り方・・セリフの表現法など多岐にわたり、内容的にはほとんど理解出来なかった。印象に残ったことは二つある。一つ目は、監督が要所々々で俳優さんに大きな拍手を送っていたこと。二つ目は劇場関係者が監督のコメントを一句漏らさずと必死にメモしていたこと。何れもその道の厳しさをひしひしと察するに十分なものであった。

 私の右隣に座す妻は、折角の機会であり、写真を撮ったりお話したり出来ないか、と勧めたがそんな雰囲気になれなかった。後日、同じことを孫たちにも言われた。孫たちには「監督に “男はつらいよ”の次回版の出演を依頼され悩んでいるよ」と負け惜しみを言ってみたが、内心は「ひょっとすると会話位できたのでは?」と無念な気がし、今となっては夢の中のヒトコマであった感がする。
 長くなり恐縮ですが、物語の大要を記すと。紙屑屋の久六は裏長屋で今日の生活にも困窮していた浪人の朴斎親子に懇願されて、古い仏像を2百文で買う。久六は、この仏像を蔵屋敷の若侍に売る。ところが、若侍がこの仏像を磨いていると、仏像の中には50両が内蔵されていた。若侍は、仏像は買ったが出てきたお金は買っていない、朴斉親子に返して欲しいと紙屑屋の久六に言う。久六が裏長屋に持ち帰ると朴斉は一度売った仏像は買った人のものとして受取らず・・・・・・その後、いろいろの事件を経て、藩主の耳に入ることになり、仏像は最後に3百両の大金となる。しかし、この大金も朴斉は頑として受け取りを拒否する・・・・・最後に知恵者が口を開き、思いがけない提案をし、めでたく完結する。と言う悲喜劇?

 人にはそれぞれの立場がある。立場が違うと、それぞれの価値観も異なる。何気なく過ごしていた日頃の生活の中にも、幾つもの異なった見方があることに改めて気付かされた。私もボーとして生きており、チコちゃんに笑われるこの頃である。作品の登場人物は、現代風の物差しでは「カタブツで・・・人間?」か。今日の観劇後は、あらためて「人やものを見る時の物差しは無限にある」と考え直すきっかけにしたいと思っている。
           おわり